特殊鋼の知識
雑学アラカルト
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№12 雑学アラカルト
世に言う貴金属の代表金、銀、白金は展延性にすぐれている事が知られる。ちなみに金(Au密度19.3)は2,000mの長さの針金にひく事ができて、0.1ミクロンの箔にする事ができる。また耐食性も抜群で王水(硝酸1塩酸3)以外には侵されず光沢を保つ。
ただ軟らかいのが玉にきずでブリネル硬さ18、引張り強さ12kg/㎜2しかない。純分はご存知の通り24カラットを100%とするため装飾品に多い18Kは75%の純分と言う事になる。
金の合金はいろいろあるが、特長ある金色光沢(こんじき)を失っては価値がないので、銅、銀、ニッケル、白金と合金して実用されている。
金貨は適当な硬さを必要とするので10%程度の銅と合金する。銅の量を増すほど赤味を帯びてくる。純金の記念金貨やメイプルリーフ金貨は資産用で貨幣としては摩耗のため実用にならない。 (村井弘佑)

№15号 雑学アラカルト
前回に引きつづき貴金属 銀(Ag)のお話です。金と同様展延性は 良く、1grの銀は1、800メ-トルのワイヤ-に引く事ができます。耐食性は金にはかないませんが大気中の高温酸化に強く溶融状態でも酸化しません。ただし硫化水素 で黒変することが知られます。銀はなんといっても「導電率、熱伝導度」が金属では「ナンバ-ワン」です。
機械的性質は金にくらべて ブリネル硬度 26、引張り強さ 14Kg/mm2と金より高い。 銀の合金は金と同様銀貨として使われます。 実用合金として7.5%銅合金のスタ-リング・シルバ-は英国の貨幣として有名です。
銀は電気伝導度がきわめて高く耐酸化性にすぐれるため電気接点として知られます。とくに融点の高いタングステン()の焼結合金は銀タンとして広く使われます。また銀-銅-亜鉛(Zn)合金は広い組成範囲にわたり銀ロウとして用いられます。銀合金の用途は昔から生活に密着しており装身具、銀器そして金の代用として歯科用に用いられる銀-パラジュウム合金があります。 (村井弘佑)

№17  雑学アラカルト-3-
低融点合金のおはなしです。純金属ほど溶融点(一般には融点:メルテング ポイント)が高いことは知られていますが、他の金属を合金すると融点が低くなり、さらに合金元素数を増やすと考えられないような低融点合金ができます。
一般に知られるロ-材の半田(SOLDER)はPb(鉛)とSn(錫)の合金でそれぞれの融点がPb 327℃、Sn 232℃ ですがSn 63%、 Pb37% で共晶温度182℃ の融点となります。 半田は用途によって配合を変えますがSn 40~50% が最もよく使われます。
低融点金属としてBi(ビスマス)271℃、Cd (カドミウム)321℃、In (インジウム)156℃ などありますが、これらの組み合わせるこで 3つ金属の3元系、4つの金属の4元系合金が実用化されています。Pb-Sn-Cd-Bi の4元系共晶点 近傍成分Bi 50%、Pb27%、Sn13%、Cd10% ウッド合金 (WOOD -ALLOY) の融点は何と65℃の低融点合金です。 (村井弘佑)

№20  雑学アラカルト
Ni合金のおはなしです。Ni(ニッケル)とすべての割合で完全に溶け合う(全率固溶体といいます)Cu(銅)は相性が良いことから、昔から種々のNi-Cu合金が実用化されています。
Ni合金の代表選手はインコ社が1905年に製造した モネル合金(Ni 67%、Cu32%)です。加工が容易で、板、棒、管に成形出来ること、海水、酸、アルカリなど広い範囲で耐食性に優れること、しかも高温でも強さを保つなどの特性があります。さらにAl(アルミニュウム)を添加して、引張強さ110Kg/mm2の析出硬化型のKモネルがあります。また、Si(シリコン)を3~4%添加した鋳造合金の HモネルSモネル は耐摩耗、耐食性が良いため 海水用ポンプ、ライナ-スリ-ブなどに使用されます。
Ni-Cu合金ののNiの一部をZn(亜鉛)で置き換えたものに洋白(洋銀とも言う)があります。一般にはCu 45%~65%、Ni 6~35%、Zn 15~35%で銀白色を呈し耐食性が良く、硬さも高いことと 板、線に加工できるため精密機械および計器用バネ、バイメタルなどに使用されます。また鋳物として装飾器類にも用途があります。 (村井 弘佑)

№22  雑学アラカルト
前回に引き続きNi合金のおはなしです。Ni合金はなんと言ってもインコ社が開発した耐食、耐熱合金(インコネル、インコロイ)が世界的に有名です。化学プラントから航空機の内燃機関まで広く使用されており、今日ではス-パ-アロイの代名詞となっています。
また、Ni合金のうちNiにCr(クロム)を合金させた ニクロム電熱線および帯が知られます。 基本的には電気抵抗値が大きくかつ耐酸化性を持ち合わせていなければなりません。 JISではNCH1~3 があります。 Niベ-スでCr15~21% 合金は冷間加工性が良いため 線、帯の高温発熱体に使われます。しかしニクロムが高価のため、低価格電熱材として鉄-クロム合金があります。 25% Cr-5% Al成分で耐酸化性に優れ、 約1250℃ まで使用できますが 冷間加工性の低いのが難点です。 JISではFCH1~2として登録されています。 (村井 弘佑)

№26  雑学アラカルト
軽い金属のお話しです。今回は生活に密着した金属ということでアルミニウム(Al)合金を紹介します。アルミニウムは比重が2.7で鉄の3分の1、鉄の3倍の体積が同じ重さです。
一番軽い金属はリチウム(Li)で比重が0.53で水より軽い重さです。アルミニウムと合金すると、リチウム1%添加で比重が3%低下すると言われており、米国では航空機材料として超々ジュラルミンのかわりに実用化が進んでいます。リチウムに次ぐものはマグネシウム(Mg)の比重1.7、ベリリウム(Be)の1.8がベストスリーです。
マグネシウムは活性金属のため、粉末は発火の危険がありますが、昔は写真撮影用のフラシュに使われました。現在はマグネシュウム合金として携帯用パソコン、携帯電話など軽量小型化と電磁波吸収機能ニーズから広く使用されています。
アルミニウムは軽い、強い、耐食性に優れるほか、加工性のよいことと、導電率(64.9%:純銅100に対して)が高く鉄の3.5倍の電気を通します。しかも比重が小さいため同じ重量の銅線に比べて、導線の太さを3倍にできる利点があり、高電圧送電線の多くはアルミニウム線が使われています。
強度は純アルミニウムは軟らかく構造材に向かないが、銅(Cu)、マグネシウム、マンガン(Mn)、けい素(Si)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)を添加することで強度が飛躍的に向上します。
Al-Cu-Mg-Mn系のジュラルミン(A2017)から改良された超ジュラルミンは、1940年代にはさらに改良され、Al-1.6%Cu-2.5%Mg-0.3%Cr-5.6Zn(A7075)の超々ジュラルミンとなり日本で発明されました。 引張強さ650N/mm2、耐力490N/mm2 はS55C炭素鋼に匹敵するもので、機械構造部品、プラスチック射出成形用金型、プレス用ダイセットモールドに使用されています。なんといっても、強度/比重 が大きく、軽量化が魅力となっています。 (技術士 村井弘佑)

№29  雑学アラカルト
前回に引き続き軽金属の代表アルミニウム(Al)のお話しです。アルミニウムは鉄につぐ工業材料で、軽量性、電気的特性、熱伝導性や塑性加工性、展延性など鉄にない性質があるためアルミニウム時代と言われるほどあらゆる分野で広く使用されています。アルミニウムの持つ特徴を以下に紹介します。
密度:比重が2.7と鉄や銅の約1/3です。この材料の魅力は軽量化にあり、航空機、船舶、自動車の輸送分野に有用されています。
耐食性:大気中で自然に表面に薄く緻密な酸化皮膜を形成するため耐食性の良い金属です。この酸化皮膜を人工的に形成するアルマイト処理(陽極酸化)によってさらに飛躍的に耐食性を改善することが出来ます。
非磁性:電磁気の磁場にほとんど影響されず、磁気を帯びることがないため非磁性を必要とする各種電気機器に用いられます。
強度:合金の種類によって引張強さは70~600N/mm2の強さが合金元素添加で650N/mm2
まで変化できるので、用途に応じて選ぶことができます。 (村井弘佑)

ALの物理的性質
性質
ALの純度(Wt %)
99.996
>99.0
比重(20℃)
2.6989
2.71
溶融点(℃)
660.2
653-657
比熱(100度C)[cal/g℃]
0.2226
0.2297
電気伝導度[%]
64.94
59
電気抵抗温度係数[/℃]
0.00429
0.0115
熱膨張ボウチョウ係数(20-100℃)
23.86x10-6
23.5x10-6
結晶型、格子定数
面心シン立方、α=4.0413kX
面心シン立方、α=4.04kX

No. 32  雑学アラカルト  
銅のお話しです。銅(Cu)の歴史は古く、紀元前2500~3000年頃から使われていたとの記録がありますが、日本に青銅が入ってきたのは遅く紀元前300年といわれています。当初はすず(Sn)、亜鉛(Zn)が合金されたブロンズ(青銅)鋳物がほとんどでした。
銅は展延性、絞り加工性が良いことと、熱伝導性、電気伝導性が優れることから工業用品に多用されるほか、生活に密着した製品に広く使われています。
熱伝導率は銀(Ag)がナンバーワン(1.0 cal/cm・℃・sec)ですが,高価なことから銅が主役です。これは銀を基準[100]とした場合、銅[90],金「70」の順となります。身近な製品の鍋には銅、アルミニウム、ステンレスがありますが耐食性、機能性、外観から材料が選択されます。おでん鍋は昔から赤がねと言われ銅製が相場ですが、一般の鍋は機能、見栄えとコストから銅、ステンレス、アルミニウム、鉄鍋が用途により使い分けされます。最近ではこれら材料を合わせ板で成形加工した銅+アルミ+ステンレスの多層構造
の鍋が市場に出回っています。
また銅は微量作用の効果から殺菌力があることが知られます。台所用品や殺菌効果を活かした衛生グッズ、水虫予防の靴下など抗菌グッズが清潔好きの現代人に受けています。同じように酸化チタンも光触媒作用での殺菌が銅以上に見直されています。
また電気をよく通すことから電線を筆頭に電気製品材料で広く使われます。純銅の種類は無酸素銅、タフピッチ銅、リン脱酸銅などJISに規格があります。 (技術士 村井弘佑)

№34  雑学アラカルト
前回につづき銅のお話しですが、今回は貨幣とのかかわりを述べます。銅(Cu)にすず(Sn)を合金すると青銅(ブロンズ)となり色が青くなります。もともと青銅は金色に似た色を持っていますが、表面が酸化してできた錆の色からこの名前がつきました。
青色に対して黄色の金属が黄銅です。銅に亜鉛(Zn)を合金したもので、一般に真鍮と呼ばれています。英語のブラス(Brass)から真鍮で造られる金管楽器のブラスバンドが有名です。
さて貨幣は硬く、かつ耐磨耗性が必要です。青銅系の代表が95%銅-4%亜鉛-1%すず合金の10円硬貨です。黄銅系は60%銅-40%亜鉛の5円硬貨、白色系は銀色に近いため高額貨幣に多く用いられ、銅とニッケルの合金で白銅と呼ばれるものです。成分は75%銅-25%ニッケルで50円100円500円が白銅系硬貨です。
かっては本物の銀貨が明治時代に流用されましたが、昭和34年に発行された100円硬貨に銀合金(60%銀-30%銅-10%亜鉛)が使われたことをご存知ですか、もしお持ちであればラッキーです。 (技術士 村井弘佑)

№36  雑学アラカルト
チタンのお話しです。この金属の特長は軽くて強いということで、重さ当たりの強さは鉄の2倍、アルミニウムの6倍になります。とくに海水中では白金と同等の耐食性があり、軽くて強く腐食に耐える三拍子そろった金属といえます。 チタンは二酸化チタン(TiO?)として地球の金属元素埋蔵量ではアルミニウム、鉄、マグネシウムに次いで四番目に多いのにかかわらず価格の高い金属です。これはチタンを抽出するのが大変で、いちど四塩化チタン(TiCl₄)にしたのち塩素を除いてとりだすハンター法(ナトリウムで還元)とマグネシウムで還元するクロール法がありますが、工業的に容易なクロ-ル法でスポンジチタンが造られます。
チタンにアルミニウム、バナジウムを添加した高強度チタン合金の開発がベースとなり機能に応じた材質改良から現在では、航空宇宙(エンジン、ロケット部品)電力プラント(タービンブレード,海水淡水化装置)海洋(湾岸横断橋、深海船)医療(人工骨、心臓弁、インプラント部品)スポーツ用品からメガネフレーム、時計、カメラなど日用品まであらゆる分野で活用されています。(技術士 村井 弘佑)

他金属との物理的性質の比較

 

比重 溶融点
(℃)
線膨張係数
(1/K)
熱伝導率
(W/m/K)
電気伝導率
銅比(%)
チタン 4.51 1.668 8.4x10-6 17b 3.1b
7.9 1.530 12x10-6 63 18
ステンレス 7.9 1.400~1.420 17x10-6 16 2.4
アルミニウム 2.7 650 23x10-6 205 64
<8.9 1.083 17x10-6 388 100
*ステンレス SUS 304

№40  雑学アラカルト
金属の毒性についてお話しします。有毒金属として知られるものに鉛(Pb)があります。近年はカドミウム(Cd)、6価クロム(Cr6+)が注目されています。
は「おしろい」の原料(鉛白)で平安時代から使われていました。おしろいの鉛成分が皮膚から浸透し中毒現象をひき起こします。しかし昔から水道管(鉛管)に使われて問題ないか疑問がわきますが、これは鉛と水、酸素、炭酸ガスが反応して水に不溶性の安定な皮膜(2PbCO3・Pb(OH)2)が生成されるため安全です。
カドミウムというと富山県で発生したイタイイタイ病が知られています。カドミウムは周期表では亜鉛(Zn),水銀(Hg)と同族で化学的性質がよく似ています。カドミウムやカドミウム化合物が人体に入ると中毒を起こし呼吸困難、肝機能障害を発症します。しかし別面ニッカド(ニッケル・カドミウム)電池のように鉛電池に比べ長寿命で軽量から有用な金属でもあります。クロムは鋼に添加すると性質が改善される有効な金属ですが、6価クロムとなると悪玉に変身します。刺激性が強く、体内に入ると生体の機能を狂わせ発ガン性があると言われています。 金属精錬、メッキ工場跡地の土壌汚染が社会的に問題となっています。 (技術士 村井弘佑)

№42  雑学アラカルト  
熱伝導、比熱からみた鍋の材質についてのお話です。
熱伝導率は熱の伝わりやすさを表すもので、金属系が大きいことが知られています。これに対しガラスや陶磁器など非金属系は熱がよく伝わりません。たとえば常温でアルミニウム(Al)は(Fe)に比べて3倍、(Cu)は5倍の熱伝導率があります。また身近なステンレスは鉄の1/5と小さいため加熱には時間がかかりますが、酸、アルカリに強く錆びにくい利点から鍋、湯沸しに広く使用されます。
しかし金属には熱伝導率のほかに比熱(1グラムの物質の温度を1℃上げる熱量)という物性がありこの両方の性質を加味して鍋材料を選ばなければなりません。比熱は温めやすさの目安となりますが、これが大きいと熱しにくく冷めにくいことから焼ムラをなくし焦げつかない鍋となり、厚手の鍋にすればより効果的です。
アルミニウムや鉄は温度を上げるのに大きな熱量が必要ですが温度分布がいいことからフライパンなどにピッタリです。 いずれ鍋類は用途別、機能面から適材質を選択するのがベターです。 (技術士 村井弘佑)

№44  雑学アラカルト
今回は熱処理のお話しです。
ヤキを入れて(焼入れ)硬くする、強くする、またナマして(焼なまし)軟らかくするなどの作業を一般に熱処理するといいます。特殊鋼と普通鋼の違いは鉄に炭素以外のいろいろな元素…クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)など加えた鋼のことであり、添加する元素によって強度、ねばり強さ、耐磨耗性、耐熱や耐食性を得ることができます。
特殊鋼は普通鋼とちがい熱処理が重要なポイントとなります。今回は熱処理の組織変化をお話しします。
鋼には常温から高温に加熱した場合変態点と称する組織の変わる温度があり、これが熱処理の重要な温度基準になります。この変態点より高温の領域がオーステナイト(γ相)、この相から急冷する操作が焼入れ(クエンチング)でマルテンサイトという硬くて脆い組織になります。しかしこの組織は変態点以下の温度に加熱冷却すればさまざまな硬さ、強さ、ねばさをもつ鋼を作ることができます。この操作を焼戻し(テンパー)とよび、焼入れ後この処理をしないといろいろのトラブルを発生します。
またオーステナイトから徐冷するとフェライト(α相)と炭素化合物のセメンタイトが層状になったパーライト組織になります(焼なまし)。いったんオーステナイト組織にした後空冷すると(焼ならし)フェライトと細かいセメンタイト粒子の混じったソルバイト組織となります。これらの組織は炭素量により多少変化します。
このように熱処理はオーストナイトからの冷却のしかた(水冷、空冷、徐冷)により組織と性質を変えることができるのです。( 技術士 村井弘佑)

№45  雑学アラァルト 
前回の熱処理のつづきです。
焼入れは変態点以上の高温(オーステナイト)から急冷して硬くする操作をいいますが
オーステナイトの変態による収縮が逆転してマルテンサイトによる膨張がおこるため塑性変形ができず焼き割れが発生することがあります。
焼き割れを防ぐポイントはマルテンサイト変態の膨張をゆっくり完了させることです。マルテンサイト変態が始まる温度の約250℃(Ms点)以下の冷却のしかたで焼入れの成否がきまります。
焼入れのポイントは250℃以下をゆっくり冷やすことMs点直前に冷却槽から引き上げ徐冷するのがベターです。
250℃になった時の見極めかたとして、対象の大きさ(直径)、冷却剤で多少かわりますが
水焼入れで3mm1秒、油冷で3mm 3秒が目安です。この方法はタイムクエンチ、引き上げ焼入れと言われます。
前回焼入れ後に焼もどし(テンパー)しないとトラブルが発生すること述べました。
焼もどしは何のためにやるか?焼入れっぱなしのものは硬いが脆い性質があり、ひずみがこもったままでいつ割れてもおかしくない状態にあります。このひずみ除去(ストレスリリーフ)とねばさを与えるための熱処理で、変態点以下の温度に再加熱します。低温と高温の焼もどしがあります。

  1. 低温焼もどし:硬くて磨耗しない工具鋼などは200℃以内のもどしをします。焼入れのままより硬さが多少下がりますが、ひずみがなくなり硬くかつ、耐磨耗が得られます。(JIS SUJ,SK,SKS)
  2. 高温焼もどし:400~600℃で加熱-冷却するいわゆる強く、ねばくする処理で機械部品のほとんどはこの調質処理をします。

もどし温度の選択は例えばバネのようにショックを受けるものは軟らかくかつねばりが必要なため500~600℃のもどしをします。(JIS SUP)
焼もどしの冷やしかたのコツは早く冷やすこと、ゆっくりは逆に脆くなります。ゆっくり冷やすと炭化物が結晶粒のまわりに析出するためです。焼もどし脆性といわれています。 (技術士 村井弘佑)

№46  雑学アラカルト
鋳鉄のお話しです。鋳鉄は硬い、もろい、鋼はねばい、強いのイメージがあります。この違いは含有炭素量(C)からくるものです。鋳鉄は溶鉱炉(高炉)で作る4%以上のCを含む銑鉄(せんてつ)に鉄くずや石灰など配合し、Cを調整したものが鋳物用銑となります。       
これを製品の形の鋳型に鋳込んだものが鋳鉄品(Iron Casting)です。2.1%C以上を鋳鉄と呼んいますが通常 C 2.5~4.0%,Si 0.5~3.0%、が基本成分です。 鋼に比べSiが高く、融点が鋼の1600℃に対し1400℃と低いこと、高Siで湯流れが良いことから昔から製品化し易い材料として多用されてきました。
鋳鉄は黒鉛の存在で切削性がすぐれ、潤滑性があること、また振動を吸収する制振性をもつことで工作機械のベッド、計測器部品の用途など鋼にない特長があります。
近年黒鉛モールドを用いた連続鋳造材が生産されています。従来の鋳型による鋳造材にくらべ鋳造組織や機械的性質の改善がはかれる利点から産業部品に活用されています。(商品名:デンスバー、マイティバー) 
鋳鉄はねずみ鋳鉄、強靭鋳鉄など多くの種類がありますが基本的には黒鉛形状と基地(マトリックス)組織によって性質がかわり種々の名称でよばれます。黒鉛が片状、球状化のもの、基地が軟らかいフェライト組織、パーライト組織(セメンタイトとフェライトの層状組織)や焼入れしてマルテンサイト組織のもの、これらの混合組織など多種にわたります。
次回はねずみ鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄の特長についてお話しします。 (技術士  村井弘佑)

№48  雑学アラカルト  
前回につづき鋳鉄のお話しです。ねずみ鋳鉄(FC)は破面が灰色のためこの名前がありますが、黒鉛(グラファイト)の形は片状(フレーキー)でみみずがはっているような形です。この形は片状のため先端に集中応力がかかると脆く、ショックに弱い欠点があります。この黒鉛の形をかえることで強さが改良されます。いわゆる形を丸くしたのが球状黒鉛鋳鉄(FCD)で別名ダクタイル鋳鉄とも呼ばれます。FCDのDはダクタイル(Ductile)をさします。
鋳鉄の性質は黒鉛形状のほか素地(マトリックス)組織が機械的性質に大きく関与します。
CとSiが高い場合は黒鉛化が進み素地がフェライト組織の極軟鋳鉄となります。C 3.0~3.5%、Si 1.5~2.5%標準成分ではパーライト素地に黒鉛が晶出したパーライト鋳鉄となり強さとある程度の靭性をもつため機械構造用鋳物として広く使用されます。
黒鉛とマトリックス組織はCとSiの成分バランスのほかにオーステナイト相からの冷却条件でも変ってきます。ねずみ鋳鉄成分でも急冷されればセメンタイト共晶(レデブライトという)とパーライトが晶出し黒鉛が存在せず破面が白い非常に硬い白銑となります。夏の風物詩風鈴は白銑の代表製品です。
黒鉛の球状化はねずみ鋳鉄の脆さの欠点をなくし、素地のフェライトやパーライトの性質が活かされる有効な手段となりました。球状化はCa-SiまたはFe-Siを0.1~0.3%接種(イノキュレーション)することで得られます。溶解炉からの鋳込み直前に添加し黒鉛の核をつくりますが時間がたつと効果がなくなるので接種後はなるべく早く鋳込むのがポイントとなります。(技術士  村井 弘佑)

№50  雑学アラカルト 
水銀のお話しです。固体の水銀(Hg)を見た方はあまりいないでしょう。それは融点がマイナス38.8℃で液体でしかお目にかかれません。水銀の鉱石は辰砂(シンシャ)とよばれる硫化物(HgS)です。精錬は辰砂を空気中で400~600℃に加熱すると水銀蒸気と亜硫酸ガス(SO2)となり、この水銀蒸気を冷却凝固することで水銀が得られます。
用途は熱膨張率が高く、常温付近でほぼ一定の比率で膨張するため温度計、体温計に昔から使われてます。また水銀蒸気中に電流を流すと起こる放電現象を利用した蛍光灯、水銀灯などよく知られています。そのほか水銀は他の金属と合金をつくるアマルガムが有名で歯科では充填材に用いられます。水銀のアマルガムはペースト状になるのが特徴でアマルガムを塗布したのち加熱して水銀を気化させ金を残すやりかたは金メッキの手法として昔から使われました。この方法は奈良の大仏の金メッキに用いられことで有名です。平城京に建立された大仏は高さ15メートルで完成時は全体を金メッキされていました。当時書かれた記録によるとおよそ150キロの金と820キロにもおよぶ水銀を使用したとのことで、気化された水銀の公害ははかり知れません。そのためからだの不調をうったえる奇病がまん延しました。平城京はたった74年で滅び遷都されています。いまでいう大々的な水銀汚染と思われます。 (技術士 村井弘佑)

№52  雑学アラカルト-1 
についてのお話しです。金属は取りまく環境との間で化学反応し、酸化物をつくります。表面にできるものが酸化皮膜です。この皮膜は水分や酸素と結合していろいろの種類の錆ができます。錆は酸素と結合した酸化物で酸化の進行とともに変化します。鉄の場合は水酸化鉄ができ、さらに酸化が進んだ形が赤錆(Fe2O3)、そして安定した四酸化三鉄(Fe3O4)の黒錆となります。この黒錆を利用した処理に黒染めがあります。簡単な防錆法としてアッセンブリ工程の部品処理等につかわれます。
ステンレス鋼は鉄にクロムが約8%以上含まれる合金ですが、(実際は錆びないではなく錆びにくい)これは表面にできる酸化皮膜つまり特殊な錆が保護するからです。ステンレスの場合は緻密で透明なクロム酸化物(Cr2O3)の薄い膜が存在するためです。(不働態皮膜という)
また銅が酸化することで生成する青緑色の錆は緑青(ろくしょう)とよばれ、銅、黄銅、青銅などに見られるもので水酸化炭酸銅を主成分とする化合物です。昔から毒物といわれました。これは銅の中に多量の砒素(ひそ)が混入するためです。現在では精錬技術の進歩で砒素含有が少なく毒性がないことが定説となっています。 次回は錆を防ぐメッキについてお話しです (技術士 村井 弘佑)

№53  雑学アラカルト
前号で錆について述べましたが、今回では錆を防ぐ方法(メッキ)についてのお話しです。
メッキは何語かご存知ですか、りっぱな日本語です。英語ではプレーテング(plating)漢字は滅金とか鍍金と書きます。前に水銀の話しで奈良の大仏の金メッキは金と水銀の合金(アマルガム)を塗りつけた段階では金が見えない状態(滅した金)が水銀の蒸発によって金が表面に現れメッキされたことがこの漢字の語源といわれています。
メッキは金、銀、ニッケル、クロムなど多種にわたりますが身近なものでは亜鉛メッキのトタン、錫(すず)メッキのブリキがあります。トタンは鉄の表面に亜鉛をメッキしたもので亜鉛のイオン化傾向が鉄より大きいため鉄の一部が露出しても亜鉛が先に溶け出し鉄の腐食をカバーします。一般には溶融した亜鉛中に鉄を浸して表面に皮膜を作る方法で、どぶずけメッキとも呼ばれています。一方電解メッキは溶融メッキ法と異なり工程中に高温にさらされないため材質特性がそのまま維持されること、メッキ層が薄く均一で表面が滑らかであることから塗装や印刷用などの用途があります。また錫メッキのブリキは錫が人体に無害であること概観が美しく耐食性がよいため缶詰など容器や電気部品に多用されます。
一方通電による金属イオンの移動によらず金属を化学的に還元析出させる無電解メッキがあります。通電を必要としないためプラスチックやセラミックなどにもメッキが可能になり、被メッキ物の形状を選ばず均一な厚みが得られるため対象製品は広い分野にわたります。なかでも無電解Niメッキでリン(P)、ボロン(B)を添加したNi-P,Ni-Bメッキは耐食性とあわせ高硬度で耐磨耗性がすぐれることから電子、機械部品に実施されています。 (技術士村井 弘佑)